2025/11/03 18:26

香りと神経科学の未来 ― 嗅覚が拓く心の理解

嗅覚研究は、単なる感覚生理学を超え、  
「意識」「感情」「記憶」といった高次脳機能を解明する重要な領域へと拡大している。  
香りは、人間の心を理解するための新しい鍵として注目されている。

――――――――――――――――――

嗅覚と脳ネットワーク  
ハーバード大学医学部の研究(Mainland et al., *Neuron*, 2014)では、  
嗅覚野と前頭前野・扁桃体・海馬の間に広範な結合があることが報告された。  
これにより、香りが記憶や感情だけでなく意思決定や社会的認知にも関与する可能性が示された。  

また、東大・理化学研究所の共同研究(Yamaguchi et al., *Science Advances*, 2022)では、  
嗅覚刺激が神経回路の同期性を変化させ、感情調整ネットワークの安定化に寄与することが確認されている。  

――――――――――――――――――

AIと嗅覚の融合  
近年、人工知能による嗅覚モデリングの研究も進んでいる。  
MITメディアラボでは、分子構造データから香りを予測するニューラルネットワークモデルが開発され、  
嗅覚の「定量的理解」への道が拓かれつつある。  

――――――――――――――――――

香りの哲学と科学の接点  
香りは形を持たず、記録も困難である。  
それにもかかわらず、私たちの心に深く作用する。  
この「見えない情報」の科学化は、人間存在を理解する上で重要なステップである。  

――――――――――――――――――

今後の展望  
嗅覚研究は、感情科学・AI・臨床心理学・文化人類学など、  
学際的な連携によってさらなる発展が期待される。  
香りを通して脳を理解することは、  
人間の「心の構造」をより深く読み解く試みでもある。  

――――――――――――――――――

参考文献  
・Mainland et al., *Neuron*, 2014  
・Yamaguchi et al., *Science Advances*, 2022  
・Keller et al., *Nat. Commun.*, 2020  

――――――――――――――――――

免責と注意  
本記事は嗅覚と神経科学に関する研究動向を紹介するものであり、  
医療・治療・予防を目的とするものではありません。

――――――――――――――――――

香りと脳 ― 五感と科学の交差点  

(全5回シリーズ)

 

1回 香りと記憶 ― 匂いが思い出を呼び覚ますとき  

https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182425

 

2回 嗅覚と情動 ― 香りが“こころの揺れ”に届く理由  

https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182507

 

3回 香りと集中 ― 嗅覚刺激が認知機能に与える影響  

https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182604

 

4回 嗅覚の可塑性 ― 香りを識別する脳のトレーニング効果  

https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182629

 

5回 香りと神経科学の未来 ― 嗅覚が拓く心の理解  

https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182654