2025/11/03 18:24
香りと記憶 ― 匂いが思い出を呼び覚ますとき私たちは、香りを通じて記憶の奥深くへとアクセスすることがある。
ある香りを嗅いだ瞬間に、過去の情景や感情が鮮明によみがえる経験。
これは偶然ではなく、嗅覚が脳の記憶中枢と密接に結びついているからである。
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嗅覚と海馬の神経経路
嗅覚情報は、嗅上皮から嗅球を経て、扁桃体と海馬に直接投射される。
この経路は視覚・聴覚と異なり、大脳新皮質を介さない。
そのため、香りは瞬時に「感情を伴う記憶」を喚起する。
大阪大学の研究(Yamaguchi et al., *Chemical Senses*, 2008)では、
懐かしい香りを提示した際に、海馬と扁桃体の同時活性化が確認された。
また京都大学の実験では、香りを伴って記憶した単語が、
香りの再提示によって有意に想起率が上昇することが報告されている。
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香りが感情と結びつく仕組み
扁桃体は情動反応の中枢であり、香りはそこへ直接刺激を送る。
これにより、香りは「記憶+感情」という二重の痕跡を脳に刻む。
その結果、香りは“懐かしさ”や“安心感”を伴って想起される。
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香りの心理的応用
高齢者施設や心理療法では、香りを用いた回想法が注目されている。
ラベンダーやヒノキの香りを提示することで、
穏やかな感情反応と会話の活性化が観察されている。
これは医療行為ではなく、「感情への自然な刺激」としての利用である。
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香りと記憶の科学的展望
嗅覚は、記憶や感情の最深層とつながる唯一の感覚である。
今後は、香りが学習効率や創造性に及ぼす影響など、
認知科学と神経科学の融合研究が進むことが期待される。
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参考文献
・Yamaguchi et al., *Chemical Senses*, 2008
・Kobayashi et al., *Japanese Psychological Research*, 2010
・Herz, R.S., *Monell Chemical Senses Center Report*, 2012
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免責と注意
本記事は学術研究の紹介を目的としたものであり、
医療・治療・予防を目的とするものではありません。
香りの感じ方には個人差があります。
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香りと脳 ― 五感と科学の交差点
(全5回シリーズ)
第1回 香りと記憶 ― 匂いが思い出を呼び覚ますとき
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182425
第2回 嗅覚と情動 ― 香りが“こころの揺れ”に届く理由
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182507
第3回 香りと集中 ― 嗅覚刺激が認知機能に与える影響
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182604
第4回 嗅覚の可塑性 ― 香りを識別する脳のトレーニング効果
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182629
第5回 香りと神経科学の未来 ― 嗅覚が拓く心の理解
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182654

