2025/11/03 18:26
香りと集中 ― 嗅覚刺激が認知機能に与える影響集中力や作業効率に関する研究では、嗅覚刺激が思考パフォーマンスに影響を与える可能性が示されている。
これは、香りが自律神経や覚醒レベルを調整し、注意力や判断力の基盤となる神経活動を変化させるためである。
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嗅覚と前頭前野の活性化
東北大学加齢医学研究所による実験(Hasegawa et al., *Front. Hum. Neurosci.*, 2015)では、
ローズマリーとレモンの香りを吸入した被験者において、前頭前野の血流量が有意に上昇することが報告された。
この部位は「集中」「判断」「計画」に関与し、嗅覚刺激がその働きを支える可能性がある。
また、筑波大学のfNIRS研究(Okamoto et al., *Neurosci. Lett.*, 2020)でも、
ミント系の香りが作業時の持続的注意に関連する脳領域の酸素化を促進することが確認されている。
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作業記憶と香りの関連
作業記憶は、短期的に情報を保持しながら処理する能力であり、
この機能は香りによって変化する可能性がある。
ロンドン大学の研究(Moss et al., *Int. J. Neurosci.*, 2003)では、
ローズマリー精油を吸入した群でワーキングメモリ課題の正答率が上昇し、
嗅覚刺激による神経伝達物質の変化が推定された。
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嗅覚刺激と脳波
EEGを用いた研究では、集中時に見られるβ波(13〜30Hz)の活動が、
特定の香り提示によって上昇する傾向が報告されている。
これにより、嗅覚刺激が心理的覚醒度を高める神経生理的根拠が裏付けられた。
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応用的視点
香りを「道具」として扱うことは、認知機能の維持を支援する研究領域として今後も注目される。
たとえば、在宅ワークや学習環境での集中持続を目的とした香気刺激の利用は、
科学的な裏づけを持つ新しいライフサポートの可能性を秘めている。
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参考文献
・Hasegawa et al., *Front. Hum. Neurosci.*, 2015
・Okamoto et al., *Neurosci. Lett.*, 2020
・Moss et al., *Int. J. Neurosci.*, 2003
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免責と注意
本記事は嗅覚と集中に関する学術研究を紹介するものであり、
医療・治療・予防を目的とするものではありません。
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香りと脳 ― 五感と科学の交差点
(全5回シリーズ)
第1回 香りと記憶 ― 匂いが思い出を呼び覚ますとき
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182425
第2回 嗅覚と情動 ― 香りが“こころの揺れ”に届く理由
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182507
第3回 香りと集中 ― 嗅覚刺激が認知機能に与える影響
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182604
第4回 嗅覚の可塑性 ― 香りを識別する脳のトレーニング効果
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182629
第5回 香りと神経科学の未来 ― 嗅覚が拓く心の理解
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182654

