2025/11/03 18:25
嗅覚と情動 ― 香りが“こころの揺れ”に届く理由 香りは瞬時に感情へ影響を与える。
それは詩的表現ではなく、神経科学的な事実である。
嗅覚が感情中枢・扁桃体と直接結びついているためだ。
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香りとストレス反応
奈良県立医科大学の実験(Matsumoto et al., *J. Physiol. Anthropol.*, 2005)では、
ラベンダー吸入後にストレスホルモンであるコルチゾールの低下が観察された。
また、和歌山県立医科大学の研究(Komori et al., *Neurochem. Int.*, 2012)では、
リモネン吸入が副交感神経を優位にし、心拍変動の安定をもたらした。
スタンフォード大学のfMRI研究(Zhou et al., *Sci. Reports*, 2021)では、
快い香りが報酬系である側坐核を活性化し、気分が上向く傾向が示された。
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香りと感情回路
扁桃体は恐怖や喜びといった情動反応を統合する。
香りは他の感覚よりも速く扁桃体へ到達し、
自律神経・ホルモン系を通して身体的反応を引き起こす。
このため、香りは“情動のスイッチ”として機能する。
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社会心理学的視点
イリノイ大学の研究では、柑橘系の香りが人間関係における信頼感や好感度を上げる傾向があるとされた。
嗅覚は無意識的に情動を介して社会的行動を調整している可能性がある。
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香りを通じた自己観察
香りの感じ方は、心の状態を反映する。
同じ香りが“重く感じる日”と“心地よく感じる日”があるのは、
脳内の情動回路が異なる働きをしているからである。
香りを嗅ぐことは、内面を観察する小さな科学実験でもある。
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参考文献
・Matsumoto et al., *J. Physiol. Anthropol.*, 2005
・Komori et al., *Neurochem. Int.*, 2012
・Zhou et al., *Sci. Reports*, 2021
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免責と注意
本記事は嗅覚と情動に関する学術研究を紹介するものであり、
医療・治療・予防を目的とするものではありません。
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香りと脳 ― 五感と科学の交差点
(全5回シリーズ)
第1回 香りと記憶 ― 匂いが思い出を呼び覚ますとき
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182425
第2回 嗅覚と情動 ― 香りが“こころの揺れ”に届く理由
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182507
第3回 香りと集中 ― 嗅覚刺激が認知機能に与える影響
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182604
第4回 嗅覚の可塑性 ― 香りを識別する脳のトレーニング効果
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182629
第5回 香りと神経科学の未来 ― 嗅覚が拓く心の理解
https://ishrine.official.ec/blog/2025/11/03/182654

